INTERVIEW05

オフィスリノベーションは
「コスト」ではない。
THE CAMPUSが実証した、
採用・企業風土醸成・
イノベーションへの投資効果

© Nacasa&Partners

2021年、大規模リノベーションにより生まれ変わった東京品川オフィス「THE CAMPUS」。
THE CAMPUSの運用開始と共に、企業を取り巻くさまざまな経営課題に対して
「オフィス」という環境から戦略的なアプローチができるようになったといいます。
実際にオフィスリノベーションで経営にどのような変化をもたらしたのか。
コクヨで働き方改革を担当する江崎が、リノベーションがもたらした投資効果を語ります。

  • 江崎 舞

    ESAKI MAI

    コクヨ株式会社
    ヒューマンカルチャー本部 働き方改革推進総務部

CHAPTER 01

低成長時代のコクヨが、
オフィスに託した役割とは

――自社ビルがTHE CAMPUSとして生まれ変わる前、組織や働き方にどのような課題がありましたか?

江崎

当時、直接的に会社から伝えられていたわけではないですが、今振り返るといくつか課題はありました。

1点目が、低成長に悩んでいたこと。1991年に売上3,000億円を達成して以降、売り上げが伸びない状況でした。小さなプロダクト単位でのイノベーションは起こっていたのですが、新しい事業が生まれるような大きなイノベーションは生まれていませんでした。

2点目が、大量生産の時代の終焉です。コクヨは文具や家具のメーカーとして、かつてはたくさんの種類の商品を大量につくることで社会を豊かにしてきました。しかし、時代背景が変わり、その方法ではいずれ立ち行かなくなります。今の時代、多様な方に多様な価値を届けることが求められます。そのためには、エンドユーザーと直接繋がりを持ち、ワークスタイルやライフスタイルを提案できる会社に変わらなければならないという課題がありました。

――それらの課題感に対して、THE CAMPUSによってどのような変化を期待していたのでしょうか?

江崎

一般的にオフィスをつくる際には、現状の働き方と理想の働き方のギャップを埋めるプロセスを考えると思います。例えば、フリーアドレス化を導入した場合、「柔軟な働き方を実践する人が何%増えたか」とか「スペース効率が何%高まったか」「働く環境の満足度がどう変化したか」などが指標になります。

ただ、コクヨのTHE CAMPUSプロジェクトは一般的なオフィスづくりとは異なるアプローチを取っています。まずコクヨの主要ドメインである「働く・暮らす・学ぶ」の未来予測から始まり、「社会がどう変わり、コクヨはどのような価値を提供できるか」を考えたのです。その「コクヨが提供する価値」を体現する場としての期待が、THE CAMPUSにはありました。

なので現在THE CAMPUSが追っている指標も、「既存の事業ではリーチできないお客様とどれだけつながっているか」「新しい“実験”の数」「従業員のエンゲージメント」等となっています。

CHAPTER 02

エントリー数181%、
内定承諾率74%。
採用ブランドを高めた
THE CAMPUS

――では、THE CAMPUS運用以降、採用面でどのような変化がありましたか?

江崎

まずグリップ力が格段に上がりましたね。「THE CAMPUSに来て入社を決めました!」という声をよく耳にします。また、THE CAMPUS運用前に比べ、本エントリー数は181%(*)に。一般的に4割程度と言われている内定承諾率も74%という高い数値が出ています。
(*THE CAMPUSオープン前から「2026年卒業予定エントリー数」の変化)

エントリーの段階でも、これまではいわゆる「文具ファン」のような方からの応募が多かったのですが、今では「コクヨは働く環境をつくる会社である」と認識した層が増えてきています。もちろん、インターンシップの開催など採用部門の努力もありますが、THE CAMPUSの空間から「コクヨが目指す働く環境」への解像度が上がっているのではないかなと思います。

オフィスは、やはり社員と経営との重要なタッチポイントです。「オフィスがどういうあり方か」ということは、その会社のあり方そのものを表していると思うのです。THE CAMPUSは、コクヨが目指したい未来シナリオである「自律協働社会」という世界観をしっかりと体現できているオフィスだと感じます。THE CAMPUSに来てみて、ぐるっと回ってみて、インターンで働いてみることで、コクヨが目指したいビジョンや価値観に共感してもらえているのだと思います。

入社式(左)内定者懇親会(右)の様子

CHAPTER 03

年間300件の挑戦が生まれる。
THE CAMPUSが育んだ
協働の風土

――社員の行動には変化がありましたか?

江崎

もともと狙っていたわけではないのですが、結果として「挑戦する風土」のスコア向上がとても顕著でした。1か月ごとの定期サーベイでスコアを測っているのですが、2021年は63ポイントだったのが、THE CAMPUS運用開始後は、74ポイントとなり、11ポイントも上がっています。このスコアは2ポイント上昇で「社内の空気が変わった」と評価できる指標なので、大きな変化が生まれたということです。

――目に見えた変化もありましたか?

江崎

そうですね。まずTHE CAMPUS運用開始後、社員の服装がガラッと変わりました。コクヨでは、2019年からドレスコードを一切廃止しています。当時は品川にある新築のテナントビルに入居したのですが、なぜかビジネスカジュアル止まりで、服装の自由化があまり浸透しませんでした。しかし、THE CAMPUSに移転してからビジネスカジュアルの風潮もなくなり、社員が自分らしい服装で出社してきたんですよね。特に会社から服装について何か発信したわけではないにもかかわらず。

江崎

服装は、その人のスタンスを表すものです。会社にその人らしい服で来てくれるということは、単なる「社員」というより「一個人」として会社に向き合ってくれているのではないかと思っています。
また、THE CAMPUSには社員がチャレンジできるような「余白のスペース」がすごくたくさん用意されています。その点はこれまでのオフィスとの大きな違いです。当初は、しっかり活用されるのか不安ではあったのですが、今では余白を使って小さなチャレンジをする社員もとても増えていて、大小合わせ年間300件ほどのイベントが開催されています。

  • ものづくりと消費の未来を考えるサステナブルな蚤の市「PASS THE BATTON MARKET」。

江崎

例えば、THE CAMPUSに植えてあるブルーベリーを使い、ライブラリーでワークショップを開催するなど。本当に小さなチャレンジですが、こういったことができるのも、心理的安全性があるからこそだと思います。企業の成長には重要なことなので、今後どう広がるかも楽しみです。

――社員発の小さな挑戦、素敵ですね。

江崎

しかも挑戦については、社内申請の仕組みを作っていません。基本的に余白スペースでは「何をしても良い」ということにして、やりたいことを実現するサポート体制だけ整えています。

もし、何か思いついても自分だけでは難しそうであれば、1階のショップに常駐しているコミュニケーターに相談すると、同じようなことを考えている人とマッチングしてくれたり、協力してくれたりします。
社員の活動を制限せずに、THE CAMPUSという場を社員にひらくことができていると感じます。

――コクヨには、所属部署に籍を置いたまま業務時間の約20%で他部署の業務に挑戦できる社内複業制度「20%チャレンジ」制度もありますよね。

江崎

はい。コクヨの社内複業の場合、いわゆる「リソースが足りないから」という求人は一切ありません。参加者も受け入れ側もシナジーが生まれるか、求人に対して希望者のキャリアプランや特性がマッチするかが判断基準です。しかも、若手だけでなく中堅層のチャレンジも活発です。

THE CAMPUSが社員にひらかれた場であるからこそ、社員の協働が明らかに増えたと感じます。THE CAMPUSの余白エリアを使って、社員がイベントやワークショップなどを開催することが自然にできるようになっている環境が、部署横断の仕組みとつながり、活発になったと感じています。

――THE CAMPUSのライブオフィスとしての機能はいかがでしょうか?

江崎

コクヨでは60年ほどライブオフィスを続けているのですが、これまではやはり総務の方の視察がメインでした。THE CAMPUSでは、社長レベルの経営層や経営企画、人事広報の方の来訪も増え、お客様の期待値も広がってきているのかなと思います。

CHAPTER 04

想定を超えて広がった、
THE CAMPUSの副次的な効果

――THE CAMPUS運用開始後、最も予想外の変化は?

江崎

2030年の未来予測をした際、「複業が当たり前になる」「学びなおしをすることが当たり前になる」といったことを予測していたのですが、それがすでに当たり前になっています。思い描いていたよりも前倒しでできたことは予想外でしたね。

また、THE CAMPUSの建設中には新型コロナウイルスの流行がありました。しかし、機能をパズルのように嵌め合わせたオフィスではなく、未来を見据えたおおらかな場を作っていたので、社会の急変にも柔軟に対応でき、会社の方針を大きく変えることなく、スムーズにテレワークに移行できました。これも驚きの一つでしたね。

副次的な効果としては、オフィスを街にひらいたことで、産前産後休暇や育児休暇を取得した社員が気軽に遊びに来れるようになったことがあります。不安が多い産休・育休中に会社とつながっていられるということは、女性活躍促進にもつながっていくのではないかなと思います。

CHAPTER 05

オフィスリノベーションは、
未来の企業風土をつくる投資

――働き方改革や経営戦略の視点でリノベーションの価値をどのように捉えていますか?

江崎

施設管理という意味では、決してコストパフォーマンスは良くないですが、つくりたい企業風土を醸成しやすいというメリットがあります。新築にはない「自分たちらしく使い倒して良い実験場的な空気感」が出るので、社員の挑戦やイノベーションを求める企業には向いていると思います。

会社のその時々の戦略によって、必要なオフィスの機能やスペースはどんどん変わってくると思います。それらを増築してもあくまで実験の一つとして収まる感覚もありますね。

また、来訪したお客様が自分のオフィスのように使ってくれることもリノベーションならではかなと。新築の家にお邪魔してもくつろげないけど、おばあちゃんの家ならくつろげる感覚ですかね(笑)。自分の家のように好きに使える心理が働くのかなと。

© Nacasa&Partners

江崎

そういった意味でも、オフィスリノベーションは単なる施設投資ではなく、未来の働き方や企業風土を育てていくための投資なのだと思います。

(取材・執筆/菱山恵巳子)

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