COLUMN04

築40年の自社ビルを“街にひらく”
コクヨ「THE CAMPUS」が
実現した、
共創を生む
リノベーション

© Nacasa&Partners

2021年、リノベーションにより生まれ変わったコクヨの東京品川オフィス「THE CAMPUS」。

目指したのは、オフィスを社員だけが働く場所から、地域の人々や働く人たち、企業やクリエイターが集い、
ともに価値を生み出す「街と人が混ざり合う場」へ変えていくこと。
そこで選択したのが、新築ではなく、築40年以上の自社ビルを活かしたリノベーションでした。
なぜコクヨは、自社ビルを街へひらこうと考えたのか。
そして、リノベーションだからこそ実現できた空間には、どのような思想が込められているか。

コクヨのビル・エリアリノベーション室の値賀、山岸が、プロジェクトの背景や設計思想、
そしてリノベーションによって生まれた変化を語ります。

  • リノベーション前の東京品川オフィス外観

    Before:リノベーション前の東京品川オフィス外観

  • リノベーション後のTHE CAMPUS外観

    After:リノベーションにより生まれ変わった「THE CAMPUS」の外観。街にひらかれた開放的な空間へ 🄫Nacasa&Partners

  • 値賀 千尋

    CHIGA CHIHIRO

    コクヨ株式会社
    グローバルワークプレイス事業本部
    ビル・エリアリノベーション室

  • 山岸 亮太

    YAMAGISHI RYOTA

    コクヨ株式会社
    グローバルワークプレイス事業本部
    ビル・エリアリノベーション室

CHAPTER 01

なぜコクヨは
「新築建て替え」ではなく
リノベーションを選んだのか

――THE CAMPUSプロジェクトが、新築ではなく築40年の自社ビルリノベーションを選んだ理由は?

値賀

プロジェクト発足当初からリノベーションと決まっていたわけではなく、新築の可能性も検討していました。コクヨとして未来の働き方を先に予測し、逆算した結果、実験しながらどんどん変化していけるという点でリノベーションに決着しました。新築建て替えだと完成がだいぶ先になってしまい、やりたいことを実現するのにも時間もかかってしまいますしね。

コクヨとしてのありたい姿を考える中で、「街にひらいてBtoCマーケティングをやってみよう」「モノづくりの新しいかたちにトライしてみよう」「企業と社会・街の接点のあり方を考えよう」といった方向性も決まり、「街にひらかれた、みんなのワーク&ライフ開放区」というTHE CAMPUSのコンセプトも生まれました。

CHAPTER 02

「モノ売り」から
「コト売り」へ。
顧客・社会とつながる
共創の場づくり

――THE CAMPUSで解決したかったコクヨの課題について教えてください。

値賀

ユーザーであるお客様を知る機会が少なく、効率重視の「モノ売り志向」が強かったことです。
コクヨはどちらかというとBtoBやBtoBtoCの会社で、販売店様と接する機会が多い企業でした。そのためどうしても「多くの販売店に効率的にどう売るか」を重視しているところがありました。これからはそうではなく、サービスや体験など「コト売り」にシフトしていきたいという思いがありましたね。

また、これまでのコクヨのモノづくりはある程度流れが固定化されていました。製品のマーケティングをしてデザインをし、商品化を決め、リリースするという大量生産的なモノづくりのスキームをベースとしていたのです。

しかし、「大量生産のメーカー」から脱却し、より個人に対するアプローチに変えていく必要があると考え、現在は個人やその人らしさを引き出すことにフォーカスしています。

――THE CAMPUSにより、その課題は解決できたのでしょうか?

値賀

そうですね。確実に一般の方との接点は増え、社外の方や地域との共創が生まれています。社員も「その人らしさ」を発揮して働けるようになったと感じます。

山岸

お客様や外部からの印象が本当にガラッと変わり、街への影響も大きかったと思います。品川で働く人と暮らす人で一緒に楽しみ、街の魅力を再発見するイベント「CULTURE SNACK」をTHE CAMPUSで開催した際、出展者様や近隣住民の方の中に「今までTHE CAMPUSに来たことがあります」という方が本当に多くて。
リノベーション前の、「コクヨ社員のためだけのオフィス」から大きく変わり、一般のお客様や、その先の街にも影響を与えているのが、今回のリノベーションの最大の効果だったと感じます。

「まちとひとのB面があつまる品川の大文化祭」をテーマにTHE CAMPUSで開催したコクヨ主催のイベント「CULTURE SNACK」 © 原田捺美

――新築ではなく、リノベーションだからできたことなのでしょうか?

値賀

はい。リノベーションは、企業の歴史も感じつつ新たな挑戦もできる手段だと思います。というのも、コクヨは周りにほとんどオフィスビルがない時代から東京品川オフィスを構えています。品川という街にあること自体が、コクヨのアイデンティティです。新築で建て替えてしまうと、そのアイデンティティが失われてしまうんですよね。

山岸

新築は良くも悪くも「完成形」がカチッと決まってしまうため、後からの軌道修正が難しいという側面もあります。一方、リノベーションだと実験感もある。経営方針や利用状況の変化に合わせて粘土のように「ちょっとほどいてみる」「ちょっとひらいてみる」といったチャレンジがしやすいと感じます。
また、新築と比較すると、リノベーションにはたくさん制約があります。今回は制約の中で、既存建物の一部を減築(げんちく)して「街にひらく」ことを選びました。制約があるからこそ、コクヨとしてのスタンスの表明もより伝わりやすいのではないかと思います。

CHAPTER 03

あえて受付を「減築」し、
1階を街にひらいた理由

――減築によりどんな効果があったのか、具体的に教えてください。

値賀

かつては中央にある塔が、「受付塔」と呼ばれていて、コクヨが目指したい姿と乖離した建物でした。受付の方が来訪者をお迎えして、入り口にセキュリティを設け、動線を一本に絞るような設計です。
これからのコクヨは「もっとひらかれた公園みたいな場所であるべきだ」という考えからあえて減築し、動線を変えました。

山岸

元々は受付機能やVIPスペース、会議室も1階にあったので、1階はお客様をご案内する場所でした。THE CAMPUSではその機能を全部2階に持ち上げ、新たに設けた外階段から入れるようにしています。その代わり、1階を街にひらかれたパブリックエリアへと大胆に変更しています。

  • Before:1階に受付があり、「来客向け」だけの空間だった

  • After:1階を街にひらかれたパブリックエリアへ。このような余白により「なんとなく立ち寄ってつながる」というこれまでのオフィスではなかった光景が生まれている。 🄫 Nacasa&Partners

  • 元は屋内だった1階テラス。リラックスしてアイデアを出し合える空間に。社内外の境界線もない。 🄫 Nacasa&Partners

山岸

特に「COMMONS(コモンズ)」は、セキュリティレベルを自由に切り替えられるので、平常時は社員のワークスペースに、イベント時は外部の方も入れるよう設計しています。THE CAMPUSのオープン以来、累計470回以上イベントに使われていて、その様子がガラス越しに街にも伝わる効果もあります。

🄫 Nacasa&Partners

月平均18回イベントが行われるホール「CORE(コア)」も誕生。没入感のある4面LEDが設置されている。

値賀

以前のコクヨのオフィスは目的を持ったスーツ姿の方しか来ないような場所でしたが、THE CAMPUSとして街にひらいてから、ふらっと訪れる方が本当に増えています。コクヨの世界観に共感してきてくださる方も多いので、ブランディングにもつながっていると感じます。

――外部との共創スペース「BOXX(ボックス)」の存在も印象的です。

値賀

THE CAMPUS運用開始当初、BOXXの場所はグループ会社のショールームでした。外から直接入れる入り口を作り、「ともに、つくる」というコンセプトで、お客様やパートナーだけでなく、ユーザーの方と一緒に共創するプロジェクトエリアとして生まれ変わりました。
特にコロナ禍以降、オンライン会議が増え、出社しても個々で会議をしている状況で、なかなか一緒に協働する場が減ってしまっていました。その中で、リアルに集まって働く象徴的な場所としてリニューアルしたのです。

「BOXX」。外から直接アクセスできるオープンな共創・展示スペース。社内外の多様なチームの 協働実験の場として機能している。 © 山本慶太

CHAPTER 04

吹き抜け階段を新設。
社員の「自律」と
「横のつながり」を生む仕掛け

――社員同士のつながりを生む工夫についても教えてください。

値賀

かつての執務スペースはエレベーターを降りると壁があり、フロアの様子が全く見えない構成でした。リノベーションで吹き抜けの階段を作ったことで、エレベーターを介さずに移動できるようになり、今まで行かなかった階にも行きやすくなりましたね。
また、THE CAMPUS運用開始以降は、「ABW(Activity Based Working)」という、業務内容や目的に合わせて働く場所や時間を自律的に選ぶワークスタイルを導入しています。どのフロアでどう働くか、目的を持って選びやすくなったと感じています。

上下階を視覚的・動線的につなぐオープンな階段を新設。移動中に他部署の様子やミーティングの熱量が伝わる環境へ。 🄫Nacasa&Partners

――実際働く中で、社内の空気は変わったと感じますか?

値賀

かなり変わったと思います。今までだと閉じたフロアで他の部署の様子もわからなかったのですが、今では他のフロアでみんながワイワイ話している様子が見えるようになりました。社内の活気を感じられますね。

山岸

確かに、いろいろな人の顔が見える感覚があります。どの部署にどんな人がいてどんな仕事をしているのかわかるので、仕事でも他部署連携がしやすいですね。社内コミュニケーションのハードルがすごく低いと感じます。

  • 会議エリアにも壁をなくし、カーテンで緩やかな境界をつくっている。会議中にたまたま通りかかった社員が参加するアクションも。

値賀

それに自社オフィスがTHE CAMPUSとして生まれ変わってから、「自分で選んで働いている」という感覚が高まりました。見学していただいたお客様から「上司は部下をどう管理しているんですか?」ともよく聞かれますが、管理はずっと隣にいるからできることではありません。上司と部下の信頼関係があるからこそ、部下が自律的に考えて働く姿を応援できます。
そういった上司と部下の関係は、空間の影響も大きいと考えています。フロアごとに雰囲気が違うので「あえてここで仕事している」という自律が生まれる。それをお互い認め合う雰囲気が空間を整えたことでより強まったと感じます。

🄫Nacasa&Partners

オフィスにはアートや植栽も。コミュニケーションやクリエイティブな発想が生まれるきっかけに。

CHAPTER 05

オフィスから街へ広がる、
新たな共創とイノベーション

――リノベーションによってクライアントや街との関係性はどのように変わりましたか?

値賀

クライアントとの関係性で言うと、新しい働き方を実際に体感いただけるので、課題と解決方法を引き出しやすくなりました。

山岸

オープンな空間で打ち合わせしたりすることもあるので、クライアント様とも「一緒につくる仲間」という感覚も生まれやすいと感じます。
それに、1階のパブリックスペースには、普通に親子連れの方とかもいるんですよ。一般的なオフィスではありえない光景かと思います。我々社員にとっても閉じられたオフィスではなく、街の中で働いている意識が芽生えるのは、視野も広くなり良い影響があると感じます。

値賀

品川の大文化祭「CULTURE SNACK」ができるのも、自社ビルだからこそですよね。賃貸ビルの一角で行うイベントだと、街の接点はそこまで作れないと感じます。
そもそも「CULTURE SNACK」も、「コクヨ主催のイベントがしたい」という思いを持ったTHE CAMPUSの設計チームと施設運用チームの社員のコラボレーションで生まれたもので。最終的にはコンセプトに共感した総勢200人以上の社員が自発的に協力してくれて、地域住民やクリエイター、周辺ワーカーを巻き込んだイベントになりました。

自分たちがやりたいことを恥ずかしがらずに宣言できる雰囲気がコクヨにはあります。そこから生まれた「CULTURE SNACK」自体も新たな共創や社外とのつながりを生み出している点で、THE CAMPUSの象徴的な事例だと思います。

(取材・執筆/菱山恵巳子)

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