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審査員インタビュー
コクヨデザインアワード2027より、新たに審査員を務めることになった鈴木 元さん。プロダクトデザイナーとして多方面で活躍する鈴木さんに、お仕事の話、デザインに対するお考えや審査への期待を伺いました。
―― 最近のお仕事について教えていただけますか。
今年のはじめに、ウッドユウライクカンパニー(WOOD YOU LIKE COMPANY)という家具メーカー(東京・昭島)と組んで、木製の椅子やテーブルを発表しました。それから大阪で、電線の会社である大原電線と一緒に、自社製品の延長コードをつくりました。電線会社として、普段はどうしても下請けの仕事が多いなか、皆さんの得意なことや思いを聞きながら、「そもそも何をつくるのか」というところからプロジェクトを進めていきました。新しい製品をつくるため、同社にはない技術に挑戦することになり、一緒に成型や樹脂の会社を回って、6年越しで取り組みました。
ウッドユウライクカンパニーと鈴木 元さんのコラボレーションによる「MIO」コレクション


写真:Gottingham
大原電線と鈴木 元さんのコラボレーションで生まれた延長コード「HIGASHIOSAKA FACTORies」
―― 企業のブランディングに近い仕事ですね。
確かにそういう側面もあるかもしれません。ただ、自分が外から何かを新しく持ち込んでデザインするというよりも、その企業にもともとある特徴や可能性を引き出すことを心がけています。WYLCにも卓越した技術をもつ職人さんがたくさんいるので、彼らのスキルや魅力を生かすにはどうしたらいいかを考えました。
大原電線は家族経営で、皆さんとても誠実な人柄で、実直に事業をやられているんです。その質実な感じが、そのままデザインに現れるといいなと思いました。ブランディングというよりは、その会社に流れる空気や、働く人々の情熱をいかに形として凝縮させるかということを意識しました。
周囲との関係性を整えていくデザイン
―― 大学卒業後、日本のメーカーのインハウスデザイン、RCAへの留学、海外のデザインファームを経て独立されました。デザインに対する考え方も変わってきたのでしょうか。
僕自身は変わらず同じようなことをやっている感覚があるんですが。インハウスで勤務していた頃というのは、時代的にも他にはない強いアイデンティティや製品単体として際立つものをつくることが求められていたように思います。当時のデザイン教育にもそうした空気があったのではないでしょうか。ただ個人的には、個別の美しさというよりは、周囲との関係性を整えていくところにデザインの大切な部分があるのではないかと考えるようになりました。


RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)留学時代の鈴木 元さん
―― そうした考えに至るきっかけがあったのですか。
いろいろな国を旅したり、海外で暮らすなかで自然に考えるようになった感じですね。たとえばバックパックでヒマラヤを旅していたとき、カフェのような店でお茶を飲んだんです。そこで出された傷だらけで分厚いコップがとても魅力的に見えて。
当時はイギリス留学中で、洗練されたデザインの世界で学んでいるところで、ふと、ヒマラヤのこの風景のなかで、そうしたデザインを美しいと感じるだろうかと疑問に思ったんです。ロンドンならかっこいいかもしれないけど、ここならこの素朴なコップなほうがいいなって。プロダクトというのは、その周囲の文脈や環境と合ってはじめて、美しさを感じるのではないか。旅から帰って、そういうことを考えながらデザインするようになりました。
世界をバックパックで旅していた頃
もちろん僕もプロダクトデザイナーですから、良いコップをつくりたい。でも、良いコップとは何かと考えると、それを使う口や手など身体との関係、飲み物との関係、あるいはそれが置かれるテーブルや、一緒に使うポットやスプーンとの関係など、コップを取り巻く周囲との関係でしか、それが良いかどうかは定義できないですよね。そのものだけを切り取って、良し悪しを決めることは実はかなり難しいことだと思うんです。
―― 鈴木さんにとって、旅というのはデザインについて考える大事な機会なんですね。
その場所で使われている道具とか、すごく気になるんですよ。旅自体が大事というよりも、その場所や風景から得るインスピレーションってたくさんあるし、旅をしていると時間があるので「どうしてこれがこんなに魅力的に見えるんだろうか」ってずっと考えてしまうんですよね。
ずっと同じところに暮らしているとすべてが当たり前になっていくけれど、旅すると一回リセットされて日常が新しく見える。旅というのは、そうした相対的な視点をもちやすくなるのかなと思っているんです。
時代に合わせてデザインをアップデートする
―― 現在は鎌倉に職住一体のスタジオをつくって活動されているそうですね。
周囲との関係のなかでデザインの価値が決まるのだとしたら、毎日の生活のなかで使うプロダクトは、やはり生活のなかでデザインしなければ間違える、と思っていて。アメリカで働いていたときも、会社で描いたスケッチや試作を自宅にもち帰って、生活環境で接したときにどう感じるかを大切にしていました。その普段の感覚や判断のほうが、むしろ正しい気がするんですよね。
鎌倉のスタジオ兼自宅
写真:Gottingham
スタジオ内の作業場ではとにかく手を動かしてつくる
―― 以前、あるインタビューで「(デザインするにあたって)より広く、大きくものごとを捉えたい」と仰っていたのが印象的でした。
これは自分自身の興味もあります。例えばコップをデザインするとき、そもそもなぜコップってこんな形をしているのか、これまでにどんなものがあったのか、個人的に知りたい。その形やつくり方には必ず理由や背景があるわけで、そうした積み重ねの上に今のデザインがある。だからその流れをちゃんと理解しておきたいんです。
一方で、ものづくりを取り巻く環境や技術はどんどん変わっていきますから、そうした状況を踏まえて、どうしたら今の時代にとってより良くなるかということを考えます。自分の個性を前面に出してデザインをするというよりは、時代に合わせてデザインをアップデートしている、あるいは微調整しているという感覚に近いかもしれません。
―― 最近はAI の話もあります。ものづくりに関わる技術やデジタル化についてはどのように見ていますか。
デザインはこれまでも、テクノロジーと人間のあいだに立って、その接点をより良いものにする役割を担ってきました。そういう意味では、AIが登場しても、デザイナーに求められる本質的な役割は大きく変わらないと思います。ただAIがもたらす変化はひじょうに大きい。これまでデザイナーが担ってきた、視覚化や分析、検証といった作業の一部は、AIによってかなり代替されていくはずです。AIやロボットが生活のなかに入ってくる時代には、そのふるまいや人格のようなものまでがデザインの対象になるのかもしれません。そのときに必要になるのは、単に使いやすさを考えることだけでなく、倫理や道徳、哲学に近い視点なのだと思います。
デザインコンペは議論のための場
―― 鈴木さんは近年、デザインを評価したり、審査する機会も増えていると思うのですが、昨今のデザインコンペティションのあり方については。
社会の状況がどんどん変わっていくなかで、「何が良いか」も変わっていきますよね。デザインコンペというのは、各自がたくさん考えて出してきた提案をもとに、みんなで「今の時代の良さとは何か、美しさとは何か」ということを議論し、社会にフィードバックしていくような機会だと考えているんです。
―― 議論や対話の場ということですね。
会社のなかだと、やっぱり「売れる、売れない」という視点が強くなるじゃないですか。それも大事なことですが、コンペというのはデザインをもう少しフラットな視点で見られる場なので、経済性からだけではなく「社会や文化にとって良いことなのかどうか」を真剣に議論できる貴重な機会だと思うんです。
―― コクヨデザインアワードについてはどのようにご覧になっていましたか。
僕自身は応募したことはなかったのですが、友人が入賞したり、カドケシなどの受賞作をよく覚えていたり、ずっと身近に感じてきたコンペですね。
テーマについては毎回抽象的で深くて、いろいろな捉え方ができます。それを抽象のまま終わらせるのではなく、文房具や生活用品など日常のリアリティに落とし込むという趣向がすごくいいなと思っています。製品化を前提にしているので、プロダクトとしてのつくりやすさや廃棄性なども考えないといけません。抽象的なテーマ性と、ものづくりのクオリティ。そのふたつをいかに共存させるかというバランス感覚は、プロダクトデザインそのもののような気もしますね。
対話的にデザインを進めるということ
―― 今年のテーマが「dialogue」に決まりました。
個人的にはとても良いテーマだなと思っています。デザイナーが「これが正しい。これでないとダメだ」というのではなく、対話的にものをつくっていくというのは、コンペに限らずデザインに求められる大切な態度だと思います。対話といっても、クライアントや社内の人、ユーザーはもちろん、素材や技術との対話もありますし、いろいろと深掘りができるテーマですよね。
また、今回初めてのテーマ会議で審査員の方々とお会いし、それぞれ専門性や視点が異なる部分もある一方で、根源的なところでは共通する考えも結構ありそうな気がしました。
―― 鈴木さんご自身としては、どのような点に着目しながら審査をしていきたいと思っていますか。
まずはやっぱり、作者がどういう着眼点で、どういうものを対象としてdialogueについて考えたのかということ。その上で、作品の完成度もきちんと見たいですね。
デザインの完成度というのは、対話的なプロセスのなかから生まれてくるものだと思うんです。例えば製品の形は、ものと手の関係性、つまり身体との対話だったり機能との対話、あるいは置かれる環境、素材、製造方法との対話から決まっていきます。言い換えれば、対話的にデザインを進めていけば、自ずと完成度が高まっていくはずです。その作品が、パッと思いついたアイデアを出しているだけなのか、対話的にデザインの完成度を上げてきているのか、という点はしっかり見たいなと思います。
―― 「対話的にデザインを進める」というのは、具体的には。
これは僕自身の考え方ですが、対話的というのは柔軟であること、という気がするんですよね。そのデザイナーが「これこそが美しさの答えだ」と最初から決めてつくってしまうと、それは対話的とはいえません。複数の人たちが意見を交わしながら、自分も相手も何かしら変わる余地がある、という変化に開いた状態が対話だと思うんです。
例えば、クライアントが大原電線でなければ、そのデザインにならなかった可能性が十分にあるわけです。そこには同社の社風や雰囲気、そこで使われている素材や製造上の制約に向き合いながら、密に対話をしながら進めていきました。
コクヨデザインアワードにおいても、自分が考えたものに対して、対象の反応を見ながら、例えば素材がどこまで曲がるのか、置かれた時に周囲とどう関係するのか、対話をしていくなかから生まれる、デザイナーの一方的な押し付けではないデザインというのを見てみたいですね。
コクヨデザインアワードならではのおもしろさ
―― どういった提案に期待したいですか。
対話って、すごく広い捉え方ができると思うんですよ。ものとものの対話もあるし、人ともの、人と人、過去と未来、もしかしたら自分自身の内面的な対話もあるかもしれない。対話という切り口でいろんな提案を見てみたいですね。
―― 最後に応募者の皆さんにアドバイスをお願いします。
デザインするときに、単数形ではなく複数形で考えてみてはどうでしょう。あるものを見るとき、それを単体として見るのではなく、その隣にあるもの、それに触れる人、それが置かれる環境。複数のまとまりのなかにそのものが存在していると考えて、そこから問いを重ねていくと自然に対話になっていくんじゃないかな、という気がします。
同時に、それが製品化を目指すコンペのおもしろいところでもありますよね。コンセプチュアルなものが何万個もつくられて普通の生活のなかに入っていくという、抽象と現実が共存するのもコクヨデザインアワードならではのおもしろさとして、ぜひ楽しんでもらいたいと思っています。